金継ぎのこと
漆で直すということ
金継ぎ(金繕い)は、器の割れや欠けを漆で繋ぎ埋め、金粉を蒔いて仕上げる修復技法です。
金粉の代わりに銀粉を使い仕上げたものは「銀継ぎ」、色漆を使って仕上げたものは「漆継ぎ(漆繕い)」といいます。
漆を使った修復は、古くは縄文時代から見られます。遺跡から発掘された土器には、漆による塗りが施されたものや、漆を接着剤として修復がなされた器があります。
室町時代になると、蒔絵など漆を使用する工芸技術の高まりと、傷跡さえもその器の個性として受け入れるという茶道精神の拡がりが、漆によって修復された器に芸術的価値を見出すこととなりました。
そして現在、金継ぎは日本のみならず世界で注目されています。
金継ぎでは、「漆の木」の樹液である漆、そして米粉や麦粉、砥の粉や木の粉など、すべて自然のものを材料として使います。そのため、金継ぎで修復された器は、再び飲食に使用することができます。私は、ただ形だけ直して煌びやかに見せるだけでなく、漆を使って直すことで、器本来の用途を取り戻し、また日常で使えることが、金継ぎの醍醐味であり美しさであると考えます。
また、漆だからこそできる修繕・表現があります。
器の作り手、持ち主、そしてその器自体への敬意を持って繕うことが、金継ぎを行う上で重要なことです。器本来のよさや愛着を大切に、繕ったところがその器に馴染み新たな調和・景色となるように繕うことを常に心がけています。そのためには、多彩な漆工芸の技法を駆使し、器の表情に適した表現をすることが不可欠なのです。
本来であれば欠点であるはずのひびや欠け、割れ跡などの傷でさえも、器の個性として楽しみ味わう。そして、日々の生活の中でもう一度使っていく。
金継ぎを通して、大切なものを、時間を越えて長く大切に使っていくことの豊かさと素晴らしさを感じてほしいと思います。